重要無形民俗文化財「八戸三社大祭の山車行事」山車人形衣装修理事業
山車人形「武田信玄」と「太公望」

重要無形民俗文化財「八戸三社大祭の山車行事」は、八戸市内のおがみ神社、長者山新羅神社、神明宮の合同例祭に合わせて、8月1日から3日に行われる行事で、三社の神幸行列に従い、多彩な民俗芸能と27台の華やかな風流(ふりゅう)山車が市内を巡行します。
このうち、おがみ神社の行列には、八戸市の有形民俗文化財である「武田信玄」と「太公望」の2体の山車人形が1年交代で曳き出されています。この2体の山車人形は、江戸時代後期頃のもので、かつては八戸藩の有力商人である河内屋が「武田信玄」を、八戸三店(はちのへさんたな)の一つ近江屋が「太公望」をそれぞれ所蔵していましたが、後の時代になり、おがみ神社へ2体とも寄進されました。
「八戸三社大祭の山車行事」の重要無形民俗文化財指定に向けた行事調査の中で、おがみ神社所蔵となっていた2体の山車人形についても調査が行われ、江戸時代の祭礼の姿や八戸藩の有力商人の祭りへのかかわりなどを示すものとして貴重であることから、平成15年7月29日に「武田信玄と屋台一式(人形、屋台、飾り幕)」「太公望と屋台一式(人形、屋台、飾り幕)」の2体が市指定文化財となりました。
この2体の山車人形の衣装は、劣化が激しく、生地の断裂も起こっている状況でした。染織分野の専門家による調査(平成28年度実施)の結果、これ以上の行事への曳き出しは、さらに衣装を痛めてしまうことから、国宝重要文化財等保存・活用事業費補助金(文化庁)を活用し、「重要無形民俗文化財八戸三社大祭の山車行事民俗文化財伝承・活用事業」として、行事の用具修理の観点から令和元年度より山車人形衣装修理を行っています。
「武田信玄」人形衣装修理事業(令和元年度~令和3年度)

事業概要
事業者:八戸三社大祭山車祭り行事保存会
事業期間:平成31年4月1日~令和3年11月30日
修理期間:令和元年7月11日~令和3年10月30日
修理対象:武田信玄人形衣装一式(染織品)
修理内容:欠損している部分は同素材の生地で補填し、糸の脱落を元に戻す。今後も行列へ曳き出すため、使用に耐えられるよう、場合によっては生地を補強する。
修理担当:学校法人女子美術大学染織文化資源研究所
事業指導:文化庁、青森県教育委員会、八戸市教育委員会(社会教育課)
総事業費
6,400,588 円
内訳)修理経費 6,324,408 円、事務経費 76,180 円
*「武田信玄」人形衣裳修理の様子についてまとめた資料はコチラからダウンロードできます。 (PDFファイル: 5.5MB)
*「武田信玄」人形衣裳の修理前及び修理後についてまとめた資料はコチラからダウンロードできます。 (PDFファイル: 7.7MB)
各衣装の修理内容/1.陣羽織
【修理前】
赤ウール地が破れ、切付の武田菱の生地も欠損していた。玉縁(パイピング)が本体から外れ、裏地の緞子地も緯糸が全体的に外れていた。
【修理後】
欠損部分を補填し、外れていた玉縁を元に戻した。金糸が欠損している部分は新しいもので補填し、審美性を取り戻した。玉縁と裏地の緞子は、今後の使用で外れないように薄い絹を全体にかぶせた。胸紐はボタン穴が脆弱であり今後の使用に耐えられないことから、スナップボタン形式に仕様を変更した。
各衣装の修理内容/2.袖
【修理前】
銀襴地の経糸が外れ、広範囲に平銀糸がずれており、生地も弱くなっていた。袖口のベルベット、内側の羽二重、木綿布が欠損し、内側の棉が飛び出していた。
【修理後】
全体に3~4ミリ間隔で糸を縫い付けて補填し、生地を補強した。袖口のベルベットは欠損部分を新しい素材で補填し、今後の使用に耐えられるように可逆性のある糊を塗り、生地の脱落を防いだ。袖の内側に、「右袖」「左袖」と明記した布を縫い付けた。
各衣装の修理内容/3.袖襦袢

【修理前】
袖の内側に着用するため大きな損傷はなかったが、シミなど汚れが付着していた。
【修理後】
全体をクリーニングし、汚れを取り除いた。内側に「右袖」「左袖」と明記した布を縫い付けた。
各衣装の修理内容/4.袴
【修理前】
袴の上に腰巻を着用するため銀襴部分に大きな破れや欠損は見られないが、裾部分は大半の生地が欠損し、芯地に使われていた和紙が露出していた。
【修理後】
後ろ紐部分の損傷が激しいため、取り除き、代わりに綿布で補強した。裾のベルベットを補填し、今後の使用に耐えられるように、袖と同様に可逆性のある糊を塗って生地の脱落を防いだ。
各衣装の修理内容/5.腰巻
【修理前】
比較的状態がよく、表裏ともに大きな破れや欠損などはないが、裾の裏側の羽二重が劣化していたり、過去に軽微な手直しをした形跡があった。

【修理後】
過去の手直し箇所はミシンを使用していたため、手縫い縫製に戻した。左右で異なる紐が取り付けられていたため、解体修理し、元に戻した。
各衣装の修理内容/6.帯、衿
【修理前】
帯(丸帯)は生地の欠損が激しく、棉が飛び出していた。平らな棉を羽二重で包んでいる衿は、縫製の糸がすべて外れていた。

【修理後】
生地が欠損している部分を補填した。衿は過去の縫い跡をたどって袋状の形状に仕立てた。
各衣装の修理内容/7.肉布団

【修理前】
棉がよれて、ふくらみがなくなっていた。

【修理後】
棉の加湿を行いふくらみを戻した。紐取付部分から生地が破損しないように木綿生地で袋を製作し、その中に肉布団を入れる仕様にした。
今後の予定
修理完了した「武田信玄」人形衣装は、人形に着せた状態で令和4 年の八戸三社大祭へ曳き出し予定です。
なお、今回修理した衣装は行事へ曳き出す時のみ人形へ着せ、平時は中性紙箱に収納して空調管理のできる屋内で保管することとし、資料の保全をはかります。
また、令和4 年度からは「太公望」人形衣装修理に着手予定、事業期間は令和4 年度から令和6 年度となる見込みです。
更新日:2022年02月10日