【八戸特派大使通信】第45回 西野 春雄

更新日:2020年01月07日

西野 春雄(にしの はるお)/ 法政大学名誉教授

西野 春雄さんの写真

昭和18年八戸市生まれ。八戸高校卒。法政大学大学院博士課程単位取得。
昭和45年から法政大学文学部専任教員・能楽研究所専任所員。 平成10年所長に就任。
本年3月定年退職。現在、法政大学名誉教授。専門は能楽の総合的研究。近年は在外能楽面の研究も進めている。
主著に「謡曲百番」(岩波書店)。新作能「草枕」(平成14年初演)。東京都在住。

シアトルでえんぶりに出会う

東京に来て五十年近くなりますが、瞼を閉じると、故郷の風景が浮かんできます。生まれ育った鮫町の誇りは、ウミネコが飛来する蕪島。その海岸線を南に下れば、群青色の太平洋と浜薔薇の咲く砂浜が広がり、美しい種差海岸近くには、モジズリやニッコウキスゲの群落と、潮風が通り抜ける松林が続きます。鮫小学校の校庭での盆踊りも懐かしく、鮫神楽の人達が墓前で奏する墓獅子は、独特のお盆の行事です。哀調を帯びた歌詞と旋律、そのあと明るく急調に転じて、霊魂の極楽往生を祈ります。

鮫小の担任の先生が鍛冶町に住んでおられ、春のえんぶりも秋の三社大祭も先生のお宅で見たものです。鮫中では版画に夢中。早朝、港でスケッチし『漁港』や『海の物語』を共同製作。汽車通学した八高でも美術部に入り、絵ばかり描いていました。

大学は法政大学文学部日本文学科に入学。やがて能楽研究を志し、大学院(修士・ 博士)終了と同時に母校の専任教員になりましたので、学部時代から数えると東京での生活は四十八年になります。

室町時代に生まれ、江戸時代に磨かれ、現代に生きる能楽は日本文化の精髄と讃えられています。私は十数年前のヨーロッパ留学を契機に海を渡った能楽面の調査や講演など、国際交流も続けていますが、昨年の春、思いがけない出会いがありました。

それは、シアトルのワシントン大学からの招きで四月から六月までの春学期、大学院で能楽ゼミを担当したのですが、四月十九日・二十日に開催の「桜祭り・日本文化祭」に八戸の中居林えんぶり一行十七名が招聘され、勇壮な摺りや祝福芸を披露するというのです。シアトルに着いてすぐ現地の『北米報知』で知りましたが、まさか異国で、しかも五十数年ぶりにえんぶりに出会うとは。何という巡り合わせでしょう。

アトキンス教授一家と出掛けた十九日は三十八年ぶりの雪が雨に変わり、少し肌寒く、しかし会場のシアトルセンターは約千人の熱気でヒートアップ。伝統の装束を着け、繰り広げられる春迎えの喜びと豊作祈願。懐かしさがこみあげてきました。少年が舞うえびす舞に拍手喝采。先住民族ドウミッシュ族と、漁撈をテーマの舞踊交流もあり、八戸のえんぶりは、国や言語を越えて、立派に国際交流の輪を広げたのでした。

芸能は人々の心を和ませ、豊かにします。ナショナルに徹すればインターナショナルに通じる。えんぶりも、そして能や狂言も、見事にその役割を果たしています。

(「広報はちのへ」平成21年 10月号掲載記事)

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